フィクション中受小説⑧|組分けテストで偏差値は変わらないのに、家の空気が変わった日

1.中学受験

結果を見る前から、なんとなく分かっていた。

月曜の17時。塾のマイページを開く手が少しだけ重い。息子はソファでゲーム動画を眺めているふりをしながら、ちらちらとこちらを見ていた。「出た?」と聞きたいのを我慢している顔だった。

ログインして、成績表を開く。算数、国語、理科、社会。数字を順番に追っていく。最後に偏差値の欄を見て、私は小さく息を吐いた。

前回と、ほとんど同じ。

上がってもいないし、下がってもいない。クラスも変わらない。良くも悪くもない、いちばん反応に困る結果だった。

「どうだった?」
息子が聞く。

私は少し迷ってから、「変わらなかったよ」と答えた。

「そっか。」

それだけ言って、また画面に目を戻した。悔しそうでも、安心した顔でもない。ただ静かだった。

以前なら、ここから反省会が始まっていたと思う。算数のあの問題が取れていれば、とか、時間配分が、とか。次までに何をやるかをその場で決めて、空気が少し張り詰めていく流れ。

でもその日、私は画面を閉じた。

「お疲れさま。」

自分でも驚くくらい、自然に出た言葉だった。

息子が顔を上げた。「怒らないの?」

思わず笑ってしまった。「怒る理由ないでしょ。ちゃんと行って、ちゃんと受けてきたんだから。」

少し間があって、息子が「……まあね」と照れたように笑った。

キッチンから夕飯の匂いがしていた。いつもと同じはずなのに、どこか軽い。私はふと思った。偏差値が変わらなかったのは、本当に“何も変わっていない”という意味なんだろうか。

テスト前の一週間、息子は以前より机に向かう時間が増えていた。分からない問題を「これ教えて」と持ってくる回数も増えた。完璧じゃないけれど、確実に前より考えるようになっていた。

結果には出ていない。でも、変化はあった。

夕飯を食べながら、息子がぽつりと言った。「今回さ、算数ちょっと分かった気がしたんだよね。」

「へえ、どこが?」

「前できなかったやつ。似た問題出てさ。」

少し誇らしそうな顔だった。その表情を見て、私は初めて気づいた。点数より先に、自信が少しだけ増えている。

夫も加わって、「じゃあ次は伸びそうだな」と軽く言った。以前ならプレッシャーに聞こえたかもしれない言葉が、その日は不思議と柔らかく響いた。

食後、息子は自分からテスト直しを始めた。「今日やるの?」と聞くと、「忘れそうだから」と言う。前なら促さないと動かなかったのに。

私は隣に座ったけれど、口は出さなかった。分からないところだけ一緒に考える。静かな時間だった。責める空気も、焦る空気もない。

ふと気づく。家の中が、静かなのに重くない。

偏差値は同じなのに。

夜、寝る前に息子が言った。「次、ちょっと上がる気がする。」

根拠はきっとない。でも、その言葉が前より頼もしく聞こえた。

「そうだね」と答えながら、私は思った。結果が変わらなくても、受験はちゃんと進んでいるのかもしれない。数字は横ばいでも、家族の呼吸は少し合ってきている。

電気を消したあと、リビングに残ったテキストを片づけながら、心が不思議と穏やかだった。上がらなかった一日なのに、前に進んだ気がする。

組分けテストは、順位を決める日だと思っていた。でも本当は、今の自分たちの立ち位置を知る日なのかもしれない。

そして今日は、悪くない場所に立っていると思えた。

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娘ちゃんの成績に一喜一憂し、日々「偏差値」という魔物とロジカルに戦う偏差値狂いのパパです!📈💥🤯

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