フィクション中受小説⑤|ママ友の「うちは放置です」を信じた私——SNSの優秀児に心が削られる夜

1.中学受験

夜22時を過ぎると、家の中は急に静かになる。食器を片づけ、洗濯機を回し終え、やっとソファに座った瞬間、私はほとんど反射のようにスマホを開いた。開かなければいいと分かっているのに、指はいつも同じアプリを押してしまう。中学受験のアカウントばかり並ぶタイムライン。今日も誰かの「組分け自己ベスト更新」「算数満点」「復習は自主的にやっています」という投稿が流れてくる。胸の奥が、じわっと冷たくなる。

昼間のカフェでの会話を思い出した。「うちは放置ですよ。本人が勝手にやってます」ママ友は笑いながらそう言った。さらっと、なんでもないことのように。私は驚いた顔をしながらも、「すごいね!」と返したけれど、内心はざわついていた。
放置であの成績? 本当に? 帰り道、私は自分に言い聞かせた。干渉しすぎなのかもしれない。もっと任せた方が伸びるのかもしれない、と。

だから今週は口出しを減らしてみた。宿題の進み具合も細かく聞かない。丸つけも「あとで見るね」と言って任せた。娘は少し嬉しそうだった。最初の二日間は。三日目には算数のノートが白紙のままになり、四日目にはテスト範囲すら曖昧になっていた。私は焦りながらも我慢した。放置が正解なんだと、自分に言い聞かせ続けた。

そして今日、返ってきた小テストは過去最低点だった。娘は「難しかった」とだけ言って、すぐに自分の部屋へ行った。責める言葉が喉まで出たけれど、私は飲み込んだ。放置している家庭は怒らないはずだから。正解の親は、きっとこういうとき黙っていられるのだろう。

でも今、SNSには「今回もクラス維持できました」「家庭学習ほぼゼロでも安定」という文字が並んでいる。画面をスクロールするたび、心が削れていく。どうして同じようにできないんだろう。どうしてうちは、こんなに管理しても、手を離しても、どちらでもうまくいかないんだろう。

ふと、昼間のママ友の表情を思い出す。
少しだけ間があった気がした。「放置です」と言う前に、ほんの一瞬。でも私はその違和感を見逃していた。もしかしたら、本当に放置しているわけじゃないのかもしれない。見えないところで声をかけているのかもしれない。あるいは、放置できるほど基礎ができているだけなのかもしれない。SNSも同じだ。結果だけが切り取られて、過程はどこにも映らない。

リビングのテーブルには、娘の筆箱が置きっぱなしだった。開けると、短くなった鉛筆が何本も入っている。消しゴムは角が丸くなっていた。放置なんて、できていなかったのは私の方だ。娘がどれだけ迷いながら机に向かっていたのか、ちゃんと見ていなかった。

寝室をのぞくと、娘はもう眠っていた。私はそっと布団をかけ直した。頬にかかった髪を払うと、小さく息を吸う音がした。その寝顔を見て、胸の奥の固いものが少しだけ溶けた気がした。比べていたのは、他の子じゃない。本当は、「理想の親」だったのかもしれない。

スマホがまた震えた。通知を見ずに電源を落とした。静かになった部屋で、私はようやく息を吐いた。放置も管理も、きっと正解じゃない。ただ、この子の隣に座ることだけは、間違いじゃない気がした。明日は、SNSを開く前に、娘に聞いてみようと思う。「今日、どこが難しかった?」と。それだけでいい夜も、きっとある。

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娘ちゃんの成績に一喜一憂し、日々「偏差値」という魔物とロジカルに戦う偏差値狂いのパパです!📈💥🤯

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1.中学受験家庭学習記録
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